姫路市の「市蝶」ジャコウアゲハはお菊さん?
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姫路市の「市蝶」ジャコウアゲハ
ジャコウアゲハ雄
白鷺城(しらさぎじょう)とも言われている「姫路城」で有名な兵庫県姫路市は、平成元年に、市制(市としての自治制度)100年を迎えました。今から約30年前のことです。
そして今年は平成が最後の年になります。
今日は姫路市民でも、まだまだ知らない人も多い「市蝶」である「ジャコウアゲハ」と言われる蝶について、ご紹介していきます。
姫路市がジャコウアゲハと言う蝶を市蝶に指定した理由は、姫路市を支えている姫路城の築城主である池田輝政の家紋が「揚羽蝶(あげはちょう)」で、その紋が入った瓦が姫路城には何千枚と使用されていることに端を発します。ジャコウアゲハはチョウ目アゲハチョウ科の蝶の一種です。
また市蝶がジャコウアゲハになったのには、もう一つの伝説が関係しています。
皆さんは「播州皿屋敷」というお話に出てくる悲劇のヒロイン「お菊さん」をご存知でしょうか?
姫路城の中には、このお菊さんが殺されて投げ入れられたという「お菊井戸」があります。
1975年(寛政7年)、姫路の城下ではある珍しい姿をした虫の蛹(さなぎ)が大発生したといいます。
その姿はまるで、女性が後ろでに縛られているような姿をしていました。当時の人々は、姫路城で殺されたお菊さんの幽霊が虫の姿を借りて、この世に帰ってきたのではと噂したといいます。
このためジャコウアゲハの蛹は、お菊虫とも呼ばれるようになりました。
戦前までは姫路城の天守やお菊神社でも「お菊虫」が販売されていたそうで、志賀直哉の「暗夜行路」の中でも、主人公(時任謙作)がお菊虫を買う描写があります。
ジャコウアゲハは姫路城にちなんだエピソードが多い上、ジャコウアゲハの幼虫はウマノスズクサスズクサを食べるため、農作物にも害がありません。このような理由から姫路市では市の蝶を「ジャコウアゲハ」に指定したのです。
お城の改修工事が終了し、現在は姫路駅の周辺の整備中ですが、それが落ち着いたころ、姫路城周辺や周辺地域でもジャコウアゲハが群生することで、姫路の町がとても魅力的になると期待しているそうです。
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子供たちの教育現場でも
小学校で学ぶ子供たちの、理科教材としてもジャコウアゲハは期待されています。実はジャコウアゲハという蝶は、モンシロチョウ等より観察や育成に適している面があります。
その理由としては、
①4月~9月にかけて年に3回発生するため、成虫を観察できる期間が長いということ。
②幼虫はウマノスズクサという植物を食べるため、成虫もウマノスズクサから離れず、卵や幼虫を見つけやすく観察がしやすいこと。
③食べると毒があるため、鳥に食べられてしまうことがないこと。
④お菊虫というネーミングが、姫路の地域教材として最適であり、姫路独自の教育ができるということ。
ジャコウアゲハの名前の由来は?
ジャコウアゲハの雄の成虫は、お腹の端から麝香(じゃこう)のような匂いをさせます。麝香というと分かりにくいですが、ムスクと言えば、香水などでご存知の方も多いのではないでしょうか。
麝香というのは、オスのジャコウジカのお腹の部分にある香嚢(こうのう)の中にある麝香腺から分泌されます。この分泌物を乾燥させた香料・生薬の一種が麝香もしくはムスクです。
ちなみにジャコウアゲハの匂いの成分は、科学的に言うとフェニルアセトアルデヒドという成分であることがわかっています。このフェニルアセトアルデヒドという成分は、例えるならヒヤシンスの花のような良い香りです。
ジャコウアゲハの特徴
ジャコウアゲハ雌
ジャコウアゲハは前翅長(ぜんしちょう:メインの翅(はね)の根元から先までの長さ)45mm~65mm。両方の翅を大きく開くと約10cmほどの大きさをしています。他のアゲハチョウと比べると、後翅が斜め後ろに細長く伸びた形をしています。
幼虫は、終令(蛹になる一歩手前)になっても黒いままで、形は全体的にいぼのような突起があり、つつくと少し控え目に臭角(しゅうかく:角みたいなもの)を出します。幼虫はウマノスズクサの葉をよく食べるのですが、葉が無くなると共食いをすることもあります。
冬は蛹で冬を越し、数か月羽化せずに過ごします。ですが暖かい時期なら1~2週間ほどで羽化します。時期や場合によっては、長期休眠する蛹もいるといいます。
成虫の雄雌を見分けるのは簡単です。オスの翅は光沢のある黒色で
、メスは明るい褐色をしています。
ジャコウアゲハはどんなところで見られる?
ジャコウアゲハの成虫は、春から夏にかけての時期に3~4回発生するといわれています。
ジャコウアゲハの幼虫はウマノスズクサという植物を食べるので、成虫はウマノスズクサの葉に産卵をします。そのためウマノスズクサの生えている場所へ行くのが、ジャコウアゲハを見つけるなら一番良い方法です。
ウマノスズクサは河川敷や畑などに生えています。山林や渓谷にはオオバウマノスズクサという木が生えていて、その周辺でもみられることがあります。またウマノスズクサではないので、葉は食べないようですが、時おりおしろい草にも産卵することがあるようです。
ジャコウアゲハには毒がある?
ジャコウアゲハが食べるウマノスズクサという植物には、毒性のあるアリストロキア酸という成分を含んでいます。ジャコウアゲハの幼虫は、その葉をたくさん食べて体の中に毒を蓄積していきます。この毒がジャコウアゲハの体の中に一生あるため、ジャコウアゲハを食べた鳥などは中毒をおこして、ほとんど吐き出してしまうほどといいます。
そうやって一度ジャコウアゲハを食べて中毒を経験した鳥たちは、ジャコウアゲハを食べなくなります。こうやってジャコウアゲハは天敵から身を守っているのです。
ただし人間はジャコウアゲハを食べたりはしませんので、触っても毒が影響することはありません。
ジャコウアゲハにあやかりたい虫たち!
毒を身体に蓄積することによって、天敵から身を守っているジャコウアゲハですが、自然界にはそんなジャコウアゲハにあやかりたい虫たちがいます。
他の虫や動物に似せて身を守ることを擬態と言いますが、その中でもベーツ擬態と言われる、本来は食べると美味しいのに、まずいと思われているものに似せることで身を守っている擬態があります。
ベーツ擬態でジャコウアゲハに似せていると言われているのが、クロアゲハやオナガアゲハ、アゲハモドキです。
ウマノスズクサってどんな植物?
ウマノスズクサ
ウマノスズクサは、その名の由来が2つあります。
①1つは葉っぱの形が馬の形に似ていて、花の丸っこい部分が馬の首に掛けるような鈴に似ている。
②花の丸っこい部分が馬の首に掛ける鈴に似ているということのみ。
多年生のつる植物です。地上に生えている部分は毎年枯れますが、また新たに生えてきます。
葉っぱはトランプのスペードのマークを伸ばしたような形をしています。花は7月~9月の間に咲き、サックスのような形をしている食虫植物です。花の香で小さなハエをおびき寄せ、花の奥にある丸っこい部分に閉じ込めます。
ウマノスズクサの花は雌性先熟(しせいせんじゅく)という性質で、花の基部におしべとめしべの両方が収まっているのですが、花の奥に閉じ込めたハエは花が雄花に変わると、脱出できるようになります。この時体に花粉をつけて脱出し、再び別の花に閉じ込められると受粉するという仕組みになっています。
昔は咳止めや気管支拡張、去痰に効能があるとされ、生薬として重宝されていました。ですが次第にアリストロキア酸の毒性など、ウマノスズクサの成分が解明されていくにしたがって、最近ではあまり使用されなくなってきました。
ウマノスズクサの成分はほとんどがタバコのニコチンやお茶のカフェイン、ケシのモルヒにネと同じ植物塩基性のアルカロイド系になります。
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ジャコウアゲハが舞う町
姫路城(白鷺城)
もし姫路市が理想とするように、姫路城周辺や周辺地域にジャコウアゲハが舞うようになるとすれば、お城を訪れる観光客は麝香の香とともに、姫路城を思い出に刻むというような、ロマンティックな旅が出来るようになるんでしょうかね。
いつかそんな日が来るのを楽しみにしています。
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